新型コロナウィルスに対する「緊急事態宣言」に関する声明

「緊急事態宣言」に関する声明

  2020年4月7日火曜、「緊急事態宣言」が東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県を対象に、安倍総理大臣から出されました。異例のスピード審議で3月13日に改定されたばかりの特別措置法(特措法)に基づくものでした。新型コロナウイルス感染拡大が地球規模で急速に拡大している現在のような事態においては、WHOの一員として「世界市民」的な観点からの連帯・相互援助を視野に入れ、憲法原則にたって、自治体と国はそれぞれの役割を果たしていくことが求められます。

この事態を受けて、NPO法人多摩住民自治研究所 理事会として以下の4点を、多摩地域内の各市町村と東京都、及び国に求めます。

 

1 地方自治体が中心になり、国が支える体制を求めます

 特措法に基づいておこなわれた今回の「緊急事態宣言」は、住民一人ひとりの命と生活を守っていく砦(とりで)としての自治体の任務の達成を国としても支え、感染の急拡大を国民の生活現場で阻止することを目的としたもののはずです。しかし特措法の制定過程では、知事会、市長会をはじめ、感染拡大を阻止する第一線たるべき自治体の関係組織に対して、何らの合議・協議をしようとはしませんでした。

すでに法律家らによって危惧されていることですが、先に改定された特措法の規定には、内閣総理大臣が緊急事態を宣言する場合の要件が明確ではなく、具体的なことは政令にゆだねられてしまっています。また、緊急事態宣言の発動や解除について、内閣総理大臣はそれを国会に報告するだけでよく、国会の承認も必要とされてはいません(特措法32条)。こうした規定は国の独裁に道を開きかねず、地方自治もこわされてしまいかねません(宇都宮健児氏ほか10名「新型コロナウイルス対策のための特措法改正に反対する緊急声明」2020年3月9日)。

緊急対策は、新型コロナウイルス感染の急拡大を阻止することが目的であり、住民一人ひとりの命と生活を守るべき地方自治体の役割を、国の任務として支えていくことを主眼にすべきです。

2 先頭に立つべき地方自治体の公衆衛生機関と、共同すべき公立・国立などの医療機関が、その任務を果たすことができる体制の実現を求めます

新型コロナウイルス感染拡大を阻止する目標を第一線で担うのは、公衆衛生機関であり、その先頭に立つべきなのが自治体の保健所とそれと共同する基礎的自治体の保健センターであり、国立・公立などの公的医療機関です。この緊急事態においてこそ自治体は保健所、保健センターを充実させるとともに、国も公的医療機関を支えていくことが求められます。

しかし東京都においてはこれまで、保健所の設置数が大きく減らされてきました。そして現在また、都立病院の民営化が進められようとしています。

国も自治体も、今回の新型ウイルス拡大を重大な契機として、あらためて住民一人ひとりの声をもとにこれまでの政策を総点検し、公的な公衆衛生・医療機関を充実させていく政策の転換を図るべきです。

3 地域・現場の実情に応じた自主的な決定の権限を明らかにすることを求めます

 感染拡大を阻止するための具体的な施策については、当然のこととして地域の実情に則した、適確な対応が求められます。

例えば学校閉鎖について、場当たり的な「要請」によってふりまわされてしまうのは、何よりも子どもと青年たちであり、そこに働く教職員、そしてその保護者の方々です。そしてまた、緊急事態時には多くの場合に学校が指定緊急避難場所および指定避難場所として指定されていることとも矛盾しています(災害対策基本法49条の四ほか)。

憲法で一人ひとりの住民に保障されている学習する権利からすれば、学校教育と社会教育の両方を含めた教育の営み、さらには住民一人ひとりの文化活動などに対する権力的な規制も排除されなければなりません。感染阻止の諸施策は、あくまでも住民一人ひとりの主権者性を基本にしたものであるべきです。

 同様のことが、学童保育の現場についても求められます。そもそも「学校を閉鎖して学童保育制度を利用させる」という方針そのものが感染防止の観点からも疑問です。指定地域になっている東京都など大都市の学童保育の現場で「ぎゅう詰め状態」は、広く知られた現実だからです。

これらのことから、特にこうした緊急事態であればこそ、国の独断やそれに従う自治体の姿勢と政策の在り方を転換し、公衆衛生機関などと結びついた現場の判断・決定を最重視するシステムを構築するよう求めます。

4 自粛要請などに見合う適切・全面的な補償を求めます

以上を踏まえながら、感染拡大阻止のための各種の行動制限が、社会と経済に重大な影響を及ぼしている状況を率直にとらえて、その被害に対する即応的な救済・全面的な補償を自治体と国の政策として具体化することを求めます。

5 地方自治体の責務を全面的に実現するよう求めます

以上述べてきたように、住民生活の全体において新型コロナウイルス感染症拡大を阻止するための努力が求められている時、憲法原則の上に立って住民一人ひとりの生存権を実現させていくべき自治体の責務を果たすうえで、さらに次の諸点に留意し、各政策に具体化するように求めます。

(1)子ども、高齢者、生活困窮者、障害者、寝たきり・療養者などの生活困難者に対する優先的政策体制を求めます。

(2)感染症拡大についての冷静で分かりやすい情報の伝達と、相談や検査などについての温かい対応システムの確立を求めます。

(3)感染者やその周囲に対する差別などの行為が起こらないようにするなど、人権原則に立った対応を政策的に確立するように求めます。

(4)住民自治の原則の上に、その生活の実態と意見に基づいて政策を決定・執行する姿勢に徹するよう求めます。

 こんにちの感染拡大がきちんと見通すことができない現実に向き合うとき、国と地方自治体は、公衆衛生機関や公的医療機関、大学その他の各種研究機関、専門家の意見をふまえつつ、何よりも主権者である住民・国民の声・要求に誠実に耳を傾け、経験や知恵を出し合い、交流しあいながら、この事態の沈静化に向けて取り組むことが重要です。

NPO法人多摩住民自治研究所は、この状況を深く認識し、「憲法原則」を掲げた研究所定款にもとづきながら、自治体の取り組みを支援し、各種機関や団体、個人の皆さんと交流しあい、学び研究しあえる場となれるよう、より一層の取り組みを重ねていくことを表明いたします。

 

2020年4月9日

NPO法人多摩住民自治研究所理事会