日本学術会議の一部推薦者に対する菅政権による任命拒否問題に対する声明

日本学術会議の一部推薦者に対する菅政権による任命拒否問題に対する声明

  

菅義偉首相が2020年10月1 日に、日本学術会議会員の推薦名簿から6名を除外して任命したことに対する抗議声明があいついでいます。ところが、菅首相はこの6名を除外した理由をいまだ明確には説明していません。また、日本学術会議から求められた、残された6名に対する任命をおこなう再度の要請に対して沈黙したままです。

NPO法人多摩住民自治研究所は、憲法に基づく地方自治を発展させるための自由な研究を定款に掲げる団体として、この声明を発表します。

 

◆政府から「独立して」日本学術会議が設置された理由

日本学術会議は、日本学術会議法によって「わが国の科学者の内外に対する代表機関として、科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透させること」を目的に、「経費は、国庫の負担」(第1条) とする公共的機関として、1949年に設立されました。また行政機関としては「内閣総理大臣の所轄」(同条)とされていますが、その職務は「独立して行う」(第3条)とし、会員の選任は「学術会議の推薦に基づいて内閣総理大臣が任命する」と明確に規定しました (第7条、第17条)。

戦前日本における滝川事件(1933年)、美濃部事件(1935年)、矢内原事件(1937年)などはいずれも、特定の研究内容に対して政府が弾圧を加えたものでした。政府にとって都合の悪い研究をおこなう学者を排除したのです。そしてそれは、アジア・太平洋戦争への総動員体制に結びついていきました。

この政府方針はまた、1938年の「国家総動員法」と、それに基づく1940年の「部落会・町内会整備要領」によって、全国の地方組織と地域住民を、直接国家権力の下に組み込むことにつながっていきました。その結果、多くの男性が兵士として戦場に駆り出されて犠牲となり、女性や子どもたちは軍需工場などに動員されました。そして沖縄をはじめ、東京・多摩地域など全国各地が空爆に襲われ、生命と財産を奪われたのです。

 

◆学問の自由に政権が介入することは、基本的人権を軽んじ、地方自治を破壊することにつながる

こうした経験から日本国憲法前文には、「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」ことが記されました。だれもが平和的に生存していけることを、国家の基本目標とすることが掲げられたのです。そして第13条には、個人の尊重原則が明記され、生命・自由・幸福を追求する権利が「国政の上で、最大の尊重を必要とする」と規定されています。

住民一人ひとりの人権が保障されるべき生活の現場は、基礎的自治体の地域にあります。だからこそ日本国憲法は「地方自治」に独立した章を立てました。「学問の自由」に政権が介入することは、政府が戦前と同じように民主主義をないがしろにして、住民一人ひとりの基本的人権を保障するという政府の基本的な任務を放棄し、地方自治を破壊していくことにつながるものです。

 

上記を踏まえて、NPO法人多摩住民自治研究所は、日本国憲法と日本学術会議法にもとづき、以下のことを直ちに実行するよう、菅内閣総理大臣と内閣に求めます。

①学術会議が推薦した名簿から6名を除外した理由を、国民に明らかにすること。
②推薦されたすべての候補者を学術会議会員として任命すること。

 

以上、声明します。

 

2020年10月31日

NPO法人多摩住民自治研究所理事会